2011年8月16日火曜日

歴史と共に生きる建築空間の役割(その2)


 「都市」は、千年の単位で記憶に残る。「まち」は、百年の単位で記憶に残る。「家」は、個人の生活と共に十年の単位で記憶に残る。この記憶とは、人々の生活から得られた歴史である。大きな災害は、1,000年の単位で起こるものと100年の単位で起こるものそして10年の単位でやってくる変貌がある。人の記憶は、残念ながら10年の単位のようである。今回の東日本大震災は、1,000年の単位と言われている。同じような事が、福岡県西方沖地震として福岡市内を襲った。これまで福岡では、大型の地震はないものとして構造強度を関東などに比べ80%の基準で設計して良い事となっていた。この基準の根拠は、過去に千年の単位で大きな地震が起こらない確率が高い事の結果採用されていたようである。
関東大震災の際に大きな被害を受けなかった建物に、世界的に有名な帝国ホテルがある。設計者はフランク・ロイド・ライトである。彼は、関東地方では、数百年の単位で一般建築に使われてきた関東地方特有の大谷石で建築躯体を作った。周辺の神社や、公共建築が壊れ煉瓦積の建物が完全崩壊する中ほぼ完全な形で帝国ホテルは利用可能な空間として残った。このため近くにあった神社で結婚式を挙げる予定だった人々のため、帝国ホテルの内部空間を挙式会場として提供した。これが現在のホテルウエディングの始まりでもあるようだ。
建築の基準が、何を指標として作られるべきかは難しい問題である。現在の日本における建築基準法昭和56年以降の新耐震基準は、関東大震災クラスの地震が来た際に建物が崩壊しない為の設定となっているが、それ以下の揺れでも大きな被害は発生する。現に、新築に近いマンションの内・外壁にクラックが発生している事例も少なくない。しかしながら、古い建物でも大きな災害を受けても被害が発生しない事例も多くあるのだ。
京都にある三十三間堂は、現在の建築基準法に照らし合わせると長さ100メートルの建物の何処か一ヶ所でエキスパンジョイントを作って大きな揺れに対応出来る構造としなければならない。しかしながら、三十三間堂は750年前に免震構造を取り入れ100メートルの長さの建築を可能としている。
  起こりえないと思われる災害に対してお金と時間を掛けて、次の世代に残せる建築を作る大切さを今回の東日本大震災は、建築の専門家に強く訴えていると私は思う。ドイツにおけるシアター建設の話をしたが、地震や津波・火災・噴火など様々なケースを想定してもきりがない事は確かだ。一つだけ言えるのは、建築の設計時点において、設計する姿勢と自分自身に置き換えて考えた設計を行う事が重要性だと思う。自分か自分の家族が、この建物を利用すると思えばコスト優先・工期優先などと言えないであろう。「自分が考える災害の限度を超えた事態が発生したらその時は自分自身も諦めがつく。」こんな事が、建築基準法に変わる新たな建築基準になるのかもしれない。

  



以前に超高層マンションを実施設計した際、爆弾テロに対しての強度基準や免震構造の採用を検討するかなどの話題が出た。その際に採用した構造設計では、珍しく超高層でありながら鉄骨鉄筋コンクリート(SRC)造でコストの面からハニカムダンパーによる制震構造の採用とした。2001年9.11同時多発テロの際の航空機衝突に対するビルの安全性や阪神大震災からの地震に対する恐怖が建築にも大きく影響をもたらすかと思った。しかしながらバブル崩壊後からリーマンショックと今に至るまで建築を取り巻く経済状況は良くなく建設その物に大きなひずみを与えた。それが耐震偽造や手抜き工事として社会問題にまで至ってしまった。たった10年前の大きな課題を捨て置いて経済を中心に行動してしまう日本は残念な状況だ。

専門知識を持たない一般の人達に、複数の専門家に相談する制度と環境を国や自治体そして建築業界が努力を怠った結果が、悪い状況を生んでいる。

震災復興や経済の立て直しには、開発・建築が大きな要素を持っていると考える。これまで話してきた時間とお金・手間を掛けた建設・開発は、経済を豊かにし可能性を大きく引き出してくれるものと考える。私は、経済学者ではない。しかしながら、私にも分かる論理である。品質の高い・安全性の高い建築を作る。当然長持ちする建物を作る。これによりリスクは高くなるが、長い期間建物を使えるようにする訳だから事業計画における事業採算性を長期期間で考えるようにする。建物オ-ナーは、長期期間で事業計画を組むので一回の返済額が小さくできる。これにより、建物の床賃貸料金が安くなる。更には、若者やサラリーマンが自分のやりたい事を事業化する際に、起業し易くなり経営も楽になる。家賃が安ければ、物販・飲食の単価も安くなり消費意欲が高まってくる。皆さんが喜ぶ内容である。ただ、銀行と国が、気長に優しく国民を見守ってくれる事が必要となる。(つづく)

0 件のコメント:

コメントを投稿